この協会が創立以来三十年あまりを経て、 その間の医療界の変動にも激しいものがあった。 協会の創設時の会員もあるいは他界し、残る会員も高齢化してきた。 会員の数も減少し、会の事業の継続にもとみに困難が加わるようになってきた。多くの新しい若い層の会員の加入が会の活力に必要なこと、及び企画などにも新しい時代に応じた協会の取り組みが必要になってきていることは誰の目にも明らかになっている。 翻って、医療の世界に目を転じると、 その変化に目を閉じてはならないことは自明である。 第一に医療における患者の地位がはるかに高くなり、 患者の権利が叫ばれるようになった。医療情報の患者との共有も常識になり、 医師はそのための努力が義務になり、医師の父権主義は否定され、 診療の選択も、情報共有の上での患者の主体的な決定に任されるようになった。 医療内容が複合化し、医師が独占する時代が過ぎた。 近代医療は多くの人々の共同の成果になった。 種々の医療専門職の技術の統合無しには近代医療の成果は得られない。 それに伴って医療における各医療職の地位も高くなった。 今日の看護師はかっての看護師ではない。 現在、全国の4年制看護大学の数は70を越す。 他の医療専門職における時代の傾向も全く同様である。 日本医学協会もこの時代の流れに目を閉じるわけには行くまい。 現代の医療には協会創立時代存在しなかった新しい、 また異質の問題が山積する。 現代の医療と取り組む限りは医療の時代の変化と問題をはっきり認知し、 協会自身も変革に応じて脱皮を図らなければ時代から取り残されるであろう。 協会は創立以来三十有余年を経た現在、そのよって立ってきた信条、 精神は時代を越えて生きているとしても、その政策や主張は、 創立時代に掲げられた療養費払いの提案から 新しい展開を示さずに今日に至っている。 わずかに医療問題懇談会やシンポジウムで 新しい医療問題に接することがあっても、 協会の見解や主張につながるものは生まれていない。 いわば、単なるサロンの勉強会になっている傾向が否めない。 そしてむしろ近年は特に地域住民を相手にした健康講座、 救急蘇生法講習などが主たる事業になってしまった感がある。 これらの事業は関係会員の大きな努力により近年は特に発展して 地域に定着し、住民の健康福祉に貢献しており、 決してこれらの事業の価値を無視するわけではないが、 協会としての本来の使命はやはり医療や医学教育に関する 見解と主張を世に問うことにある。 このままで推移すれば、協会は時代から取り残される懸念を 感ぜざるを得ない。今、21世紀を迎えるに当たり、 協会は創設当時の精神の継承と推進に向けて、 乾坤一擲、「新たなる飛躍」を図るべき時代を迎えたと 断ぜざるを得ないのである。 |